『When I’ve Got You』MVディレクター、ガリム・アシロフ氏インタビュー
国際通信社「DK News」記事 2024年4月24日付
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注意書き
・これは2024年4月24日、「DK News」に掲載された、音楽プロデューサー、ガリム・アシロフ氏のインタビューです。今年(2024年)4月に発表されたディマシュのMV『When I’ve Got You』の制作秘話です。
・記事の自動翻訳などを参考に、読みやすい日本語に翻訳し直しました。
・各章の「見出し」は、「目次」のために内容を考慮して独自に作成したものです。
・これは「ディマシュ・ジャパンFC」専用記事です。
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YouTube動画:『Dimash Qudaibergen – “When I’ve got you” OFFICIAL MV』
by Dimash Qudaibergen(公式) 2024/02/26に公開済み
- 発表後わずかな期間で200万回再生を突破したMV
- トルコのイスタンブールにて、MVは記者会見の席で初披露された
- MVディレクター、ガリム・アシロフの経歴
- ある日の真夜中、ディマシュが電話をかけて来た
- ガリム・アシロフ氏のディマシュ評
- 「吸血鬼」のテーマはどのように現われたのか
- 創造性による人物像と、現実の人間はちがうもの
- コメディでもスリラーでもなく
- 「長い爪」をつけたディマシュの様子と、目の色について
- 豪華な衣装の制作過程
- ポリーナ・グジエヴァ、ジャーナリストを演じた女性について
- オペラ曲『花の二重唱』は、どのように選択されたのか
- ディマシュが「役柄」に挑む様子
- ディマシュが「撮影」に挑む様子
- 撮影エピソードと、編集作業
- 【ディマシュの仕事への取り組み方】
- ディレクターが成功を確信したシーンとは
- CGはなく、そしてディマシュは ‟体内時計” を持っている
- 視聴者のコメントと、ディレクターが語るディマシュへの感謝の思い
発表後わずかな期間で200万回再生を突破したMV
ディマシュ・クダイベルゲンとガリム・アシロフは創造的なタンデムだ。
『When I’ve Got You』MVのメイン・ディレクターが語る。
カザフスタンの「人民芸術家」、ディマシュ・クダイベルゲンの最新クリップ『When I’ve Got You』は、YouTubeで再生回数を増やし続け、わずか数週間で確実に200万回再生をの大台を突破した。
DKメディア・ヨーロッパの編集者は、予想外のプロットと印象的なビデオシークエンスを備えたこの本格的ミニフィルムがどのように制作されたのかを、ミュージック・ビデオのメイン・ディレクターであるガリム・アシロフに尋ねてきた。
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トルコのイスタンブールにて、MVは記者会見の席で初披露された
2月26日、イスタンブール。
トルコで開催されるディマシュ・クダイベルゲンのソロ・コンサートと、新曲『When I’ve Got You』のミュージック・ビデオの初公開に関する記者会見が行われた。
私たちは興味深くスクリーンを見ていた。
向かいのテーブルには、メイン・プロデューサーであるカナト・アイトバエフが座り、その隣にはこの曲の作者であり主役の男性を演じた彼の息子のディマシュが座っている。
少し離れたところには、ビデオのメイン・ディレクター、ガリム・アシロフが立っている。
MVは異常に新鮮で、ビデオシークエンスは大胆なものだった。
数分後、会場は予想外の悲鳴に包まれた。
会見の「犯人」の顔には笑みがこぼれ、当然の拍手が沸き起こった。
初演からわずか数週間で、このMVが期待に応えていることが明らかになった。ディマシュの歌『When I’ve Got You』は世界中の多くのラジオ局で流れている。
YouTubeのクリップの下には、ますます多くの外国人が熱狂的なコメントを残している。
「ミュージックビデオの演出が素晴らしい!」
「登場人物の動き、カメラの動き、すべてが歌詞にぴったり合っていて、どのシーンも壮観だ」
「クリップの好きなところでビデオを止めてみてよ、どこだって美しいショットなのよ!」
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MVディレクター、ガリム・アシロフの経歴
では、ディマシュの繊細なトラックに合わせて、これほど成功したビデオ・シークエンスを作ったこの人物は、いったい誰なのだろう?
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「私はアルマトイ市で生まれました」
と、ガリム・アシロフは語り始めた。
「子供の頃、私は科学者になって若返りの薬を発明することを夢見ていました。
学生時代に、ビデオ制作に興味を持ちました。その頃の私の最初の仕事は、8mmフィルムを使用した古いカメラで家族のビデオを撮影することでした。
しかし運命に導かれて、私は職業能力開発専門学校にプログラマーとして入学しました。
そこで私はKVN(*1)で仕事を始め、KVNのプロダクションの脚本家および監督として最初の実践的なスキルを習得しました。」
(*1:KVNは、ロシアおよび旧ソビエトの「コメディ・テレビ番組」のことのようだ)
「その後、映画テレビ・アカデミーで学び、修士号を取得しました。
また、モスクワのVGIK(全ロシア映画大学)でインターンとして1年間を過ごしました。
学生時代には、結婚式向けの『ラブストーリー』と呼ばれるコマーシャルプロジェクトの撮影など、多くの仕事経験を積んできました。
短編映画のフォーマットで撮影しようとしていました。」
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ある日の真夜中、ディマシュが電話をかけて来た
2012年に全30話のシリーズ『The Offer’s Word』(*2)の撮影で、プロとしてのキャリアをスタートさせ、現在では引っ張りだこになった才能あふれるミュージック・ビデオ・ディレクターは、政府の行事にも携わっている。
(*2:カザフスタンのTVドラマシリーズらしい。調べた限り、同番組の2014年度の視聴ページがあり、ディレクターにアシロフ氏の名前がある。ロシア帝国軍中尉クルチツキーが書いた若い将校へのアドバイス「将校の言葉」30項目を物語にしたもの、とのこと)
ディマシュから、2022年に彼のツアーの幕開けとなった、アルマトイでのソロ・コンサート「ストレンジャー」のビジュアル・コンテンツを制作するという提案を持ちかけられた時、「特に」驚かなかった、とガリムは言う。
「その時は」
と、ガリムは説明する。
「私は彼の計画を知りませんでした。
しかし、カザフスタンの誰であっても、あのプロジェクトの実施を引き受けることはなかったでしょう。素早く、効率的に、そしてディマシュの考えどおりに正確に撮影する必要があるからです。
私は、彼が自分で私に電話をかけてきたことに驚きました。
実際のところ、彼のマネージャーかアシスタントが私に電話をすることだって出来たからです。」
この協力関係の成功は、ディマシュが夜中にかけてきた思いがけない電話から始まった。
「私は国営コンサートの監督をしていたので、ディマシュのことはよく知っていましたが、その時は不在にしていました。私たちメイン・ディレクターは(コンサート会場の)コントロール・ルームでマイクを握っており、セカンド・ディレクターはそのアーティストと一緒に仕事をしていました。」
「だから、彼が真夜中に電話をかけてきた時、私はそれが誰だかわかりませんでした。」
「ディマシュは、自分のプロジェクトについて、『ストレンジャー・コンサート』について、そして最初の弦楽器であるコブズの生みの親である『コルキット・アタ Коркыт ата』の伝説をみんなに紹介したいと話しました。
それから彼は、ドンブラについて、この楽器についてのビデオを作りたいという願望について話し始めました。彼は自分のビジョンを説明し、コンサートのプロローグとなるシークエンス(シーンの集まり)の撮影を私に依頼しました。
私たちは3、4時間、ほとんど朝まで話し込みました。」
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ガリム・アシロフ氏のディマシュ評
この出会いの物語を聞いていると、ディマシュが当時のガリムにどのような印象を与えたのかを知りたくなるだろう。
「豊かな想像力とカリスマ性を持った、素朴で、でも同時に、この世のものではない人でしたよ!
私たちはすぐに、お互いのクリエイティブな波長が同じであることに気がつきました。そしてその後実際に会ってみて、私が暫定的に考えていた結論はすべて確信に変わりました。
ディマシュは優しさ、シンプルさ、天才的な知性を驚くほど兼ね備えていました。
彼と話していると、目の前にいるのがディマシュだということをしばし忘れてしまいます。
しかしステージ上の彼を見るたびに、彼がプロフェッショナルであることを実感し、そのエネルギーに驚かされるのです!」
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「吸血鬼」のテーマはどのように現われたのか
仕事は沸騰し始めた。
ガリムはアルマトイのコンサート「ストレンジャー」のプロモーションビデオ、「コブズとドンブラの伝説」、そして「Exeed」の広告を撮影した。
次はミュージック・クリップ類だ。
最新のMVである『When I’ve Got You』は、これまでのすべてのMVとはスタイルが大きく異なっている。
特に興味深いのは、脚本の執筆時に「吸血鬼」のテーマが浮上したことだ。
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「私にとってスリラーやホラー、探偵、神秘主義などのジャンルは、身近なものです。将来的にはこの方向の映画を制作したいと考えています。
ディマシュがこの曲をベースにして何か映画を撮りたいと言ったとき、曲のトラックを聞いた後で私は自分のアイデアの概要を説明しました。
フランケンシュタイン博士のスタイルで、女の子が恋に落ちる怪物についてのものです。
ディマシュはホラーのテーマを気に入り、吸血鬼のバージョンを提案してきました。
彼は、ヴァンパイアにインタビューしたい女の子のプロットを、大まかに説明しました。
そして、それをもとにして脚本を組み立てたのです。」
「だいたいこんな感じです。
私たちは曲のトラックを聴いています。
頭の中に、ある種の幻想が生まれます。
私は自分の考えを彼と共有し、ディマシュも彼の考えを私と共有し、そして共通のコンセプトに到達して脚本をまとめます。
何かのアイデアが孵化するまでには、時間がかかります。
曲自体は魅力的でした。それはとても残忍で、男らしく、特徴的です。
『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』(2015年米の官能恋愛映画)のスタイルで見せたかったのですが、あの映画と同じようなビジュアル表現ではなく、もっと幻想的で珍しいものにしたかったのです。」
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創造性による人物像と、現実の人間はちがうもの
ガリムはまた、ディマシュのようなマルチな才能を持つ人物だからこそ実現できるアイデアを披露し、「創造性」の概念とその本質について、鮮やかな例を挙げて説明した。
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「ディマシュをひとつのイメージで表現するのではなく、さまざまな役割、さまざまなキャラクターの形で表現したかったのです。
彼は芸術家であり、俳優であり、おとぎ話やファンタジーのようなさまざまな役柄に挑戦するべきです。そして、最初に実現したのが吸血鬼だったわけです。」
「創造性とは、ディマシュが現実にそのような人物であることを意味するわけではありません。
ディマシュは、今日はこの世のものではない男、明日は勇敢な騎士、明後日は逆に臆病な王を演じることができます。
でもそれは役柄であって、彼がそれを演じたからといって、彼がそういう人物であるというわけではないのです。」
「多くの人はディマシュを光のような(明るい)人物として見ることに慣れています。
今回の映像では彼を野獣のような暗い存在として見せていますが、私たちは創造性について話しているのであり、実験し、試行錯誤しているのであり、観客にさまざまな感情を与え、芸術家をさまざまな側面から見る機会を与えていることを忘れてはなりません。
そしてそれは、彼が常にあのようであることを意味するものではありません。
明日は天使の映画を作り、彼は天使のようになるでしょう。
その次は騎士の映画で、彼は高貴なヒーローになるでしょう。
そしてその後は、他の兵士を殺す兵士を演じて、それは悲しいストーリーです。
でも、それはディマシュの選択です。
私は彼に何かを強制しているわけではありません。
彼のミュージックビデオは、ほとんどすべて、彼のアイデアなのです。」
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コメディでもスリラーでもなく
ガリムが若い頃にKVN(コメディ番組)で仕事をしていたことを思い出すと、このビデオは吸血鬼のテーマを誇張していて、あまり真剣に考え出されたものではないと考えるのが自然ではないだろうか?
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「それが完全に間違っているとは言えません。
もちろん、ビデオの中には、たとえば『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』や、このジャンルの他の有名な映画への ‟決まり文句” や引用がいくつかあります。
鏡に映った主人公の姿が見えないこと、最後に彼がカメラに向かってジャンプスケア(*3)のように飛び出してくること……ただし、コメディを作るという仕事ではありません。
かといって、本当の恐怖を見せるつもりも、ありませんでした。
私たちの意図は、スリラーを作って観客を怖がらせることではなかったのです。
このビデオでは、さまざまな映画ジャンルの決まり文句を集めた、軽いスタイルを選択しました。
(*3:ジャンプスケアjumpscareは、ホラー映画やTVゲームなどで、大きな音と突然現れる怖いショットで観客を驚かせる、いわゆる「びっくり演出」のこと)
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ここで思い出されるのは、イスタンブールでのMVプレミア上映で、‟野獣のような” 主人公のラストシーンに悲鳴を上げた観客の姿だ。
「ラストシーンはもともとそうなる予定でした。
それでも、ビデオ全体を通してディマシュは吸血鬼として登場しますから、視聴者は少なくとも1回は彼の牙をうっとりと見とれなければなりません。
私たちは、すべてはリムジンの中で眠ってしまったジャーナリストの想像力によるものだと考えて、この瞬間をビデオの最後でほんの一瞬だけ視聴者に見せることにしました。」
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「長い爪」をつけたディマシュの様子と、目の色について
実際に、牙、爪、長い髪、そして衣装そのものが記憶に残り、視聴者の正当な関心を呼び起こし続けている。
3日間の撮影中、メイクには毎日1時間から2時間かかったという。
ビデオの中でディマシュが鮮やかに体現した主人公のイメージは、どのようにして作られたのだろうか? 吸血鬼の見事なエフェクトには、どれだけの労力が費やされたのだろうか?
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「ディマシュはいつも、あの長い長い爪に苦労していました。
シーンは長時間にわたって撮影されていたため、爪を剥すことができなかったのです」
と、ガリムは、状況の本質と試練に対するディマシュの反応を説明する。
「彼は驚いていましたよ。
『女の子たちは、どうやってあんな爪に対処してるの!?』と。」
「私たちは、ディマシュをいつもビデオの中で見ているような姿にはしたくありませんでした。
彼は何か違うものを見せなければなりません。
そして、髪型や爪などを含めた全体のイメージを作ったので、目の色も変えることにしました」
監督も、カラーレンズを使うというアイデアを共有していた。
「目を青くするのはやりすぎです。
赤……これはあまりにも反抗的で、攻撃的すぎます。
そこで、ニュートラルなグレーの色調に落ち着きました。
色補正で青にしたのです。」
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豪華な衣装の制作過程
ガリムは、舞台衣装の制作過程と、そのディテールの由来について詳しく語った。
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「手に取ってみました。
衣装は革製で、重かったです。
でも、インサート(装飾の金物)は金属ではなく、3Dプリンターでプリントされた、金属に見せかけたものです。
中国のファッション・デザイナーは、グーグルやピンタレストで見つけた画像から人工知能を使って私が作成したスケッチから、文字通り5日間であのスーツを作り上げました。
私はAIにいくつかの選択肢のバリエーションを与えて、写真を作成しました。
パターンはすべて中国のファッション・デザイナー自身が描いたものです。私は、装飾にカザフスタンのモチーフのニュアンスが出るように、バリエーションだけを送りました」
ガリムは説明しながら、服の中にベルトが2本ある理由を説明した。
「イメージに合っているんです。昔は1本目のベルトでズボンを締め、2本目のベルトでマスケット銃や剣を吊るしていました。
今回はマスケット銃も剣も持っていませんが、それでもベルトを2本残したのです。」
「ディマシュはよく鏡の前に行って、ショックを受けている自分を見ながら、こんなふうに冗談を言っていました。
『おお神様、見てくださいよ、こいつにも人民栄誉賞が授与されたんですよ!』」
「興味深いディテールがあります。
クリップの中で、ディマシュの全身像が壁に掛けられていますが、これはまさに、この衣装の最初のスケッチをキャンバスにプリントしたものなんですよ。」
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ポリーナ・グジエヴァ、ジャーナリストを演じた女性について
ポリーナが選ばれた経緯
ミュージック・ビデオでは、ヴァンパイアのヒーローのほかに、ポリーナ・グジエヴァ演じるジャーナリストも主人公のひとりとして登場する。
ディマシュのパートナーは、どのような基準で選ばれたのだろうか?
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「ヴァンパイアの物語のルーツはヨーロッパにあるので、アジア系ではなくヨーロッパ系の女性を選びたかったのです。そして、かわいらしくてとても傷つきやすく、優しくて壊れやすい、守ってあげたくなるような女の子でなければなりません。」
「私たちは長い時間をかけて検索しました。
ロシアから、キルギスから、ビシュケクから、アルマトイから、60人ほどの候補者を検討しました。
しかし、誰ひとりとして適任者はいませんでした。
私たちは、自然で素朴な女の子を探していました。
ポリーナは、まったく偶然に私たちのリストに載ったのです。彼女は吸血鬼の妻のひとりの役で、別のキャスティングとして検討されていました。
そして私は言いました。
『ディマシュ、彼女だと思うんだけど』
すると彼は、
『おお、いいね、カッコじゃない、決まりだね』
と言ってくれました。」
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ディマシュが役柄上のパートナーを選ぶ様子
つまり結論として、「2時間以上」(*4)彼のパートナーになる女の子は、ディマシュ自身によって選ばれたことを示唆している。
(*4:「2時間以上」とは、2022年ディマシュがインドのムンバイで開催された「上海協力機構映画祭」でのインタビューで、冗談めかして言った「2時間の映画を選ぶのは、2時間のパートナーを選ぶようなもの」という発言を示唆している。)
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「もちろん、ディマシュはパートナーを承認しましたが、彼はどっちでもいいのです。
ただし、彼は私たちを頼りにしています。
私たちが、その役割に適しているのはこの人だと言えば、彼は私たちを信頼します。
同時に、彼はふんぞり返って10人の女性から選ぶこともしません。
この子は好きだけどこの子は嫌いだな、とか。
これは絶対に彼のスタイルではありません。
ディマシュはただ、尋ねるのです。
『どの女の子もカッコよくて、選ぶのが難しいんだ。誰がいいか教えてくれる? どう思う?』
そして私はこうアドバイスします。
『実物はあっちの彼女のほうが良く見えるかもしれないけど、カメラのフレームではこっちの彼女のほうが映えるよ』
彼はプロを信頼してくれます。」
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ポリーナの経歴を、誰も知らなかった
会話をしていくうちに、キャスティングの時点では、ポリーナのあのか弱く繊細な外見の裏に、カザフスタンの陸上チャンピオンの鉄の性格と、ミス・ユーラシア・インターナショナルのタイトル保持者の経験があったことを、誰も知らなかったことが明らかになった。
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「アスリートであることは、彼女を助けていたと思います。
彼女は気まぐれではなく、忍耐力がありました。
3日間、朝から晩まで撮影しましたが、ポリーナは疲れているとか足が痛いとか、1度も不平を言いませんでした。
そのような負荷に慣れていない、壊れやすい女の子だったら、おそらく不機嫌になり始めていたでしょう。
そしてポリーナは、外見上はヨーロッパ人ですが、心の底ではカザフスタンの戦士です。実際に彼女はカザフスタンにルーツを持っていました。
彼女はよく持ちこたえてくれました。
それどころか彼女はおそらく、これらすべての疲れて息苦しい撮影のあと、逆にスリルを求めてプールに飛び込むのを楽しんだことでしょう。
私たちは、ポリーナがアスリートであり、チャンピオンであることを、ディマシュのファンとジャーナリストの両方から、最後になって初めて聞いたのです。」
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オペラ曲『花の二重唱』は、どのように選択されたのか
1883年にパリで初演されたレオ・ドリーブのオペラ『ラクメ』第1幕の「花の二重唱」がクリップに登場するまでの経緯も、決して平凡なものではなかった。
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「クリップの冒頭では、ハンス・ジマー風(*5)の現代的な映画のメロディーを使用する予定でした。」
(*5:ハンス・ジマーはドイツ出身の作曲家。代表作に「レインマン」「ライオン・キング」「パイレーツ・オブ・カリビアンのテーマ」「インターステラー」「DUNE砂の惑星」など多数)
「私はそれをディマシュに見せたのですが、彼は何か違うものを望んでいて、記憶を頼りに私にその曲を口ずさみ始めました。 ‟僕の頭の中では、これが流れているんだ” と言って。
でもディマシュは作者を知りませんでした。
その音楽は私にとって馴染みがあるように思えたので、私は一晩中ググって、携帯電話のシャザム(アップルの音楽検索アプリ)でその曲を探しました。
そして、有名なオペラの歌姫たちが演奏する現代版を見つけました。
しかし、現代版だと著作権の問題が発生します。
70年以上前の曲なら、私の勘違いでなければ、著作権は必要ないはすです。
そこで、私たちはこの曲のオリジナル・バージョンを見つけたのですが、それがミュージック・ビデオにぴったりだったので、誰もがディマシュが歌っていると思ったのです。
実際、そのままオリジナルなんですよ。
特殊効果も使っていないし、エイジング(熟成したような効果)もしていません。
なぜなら、それはアナログ盤のレコードで、とてもとても古いものでしたから。」
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ディマシュが「役柄」に挑む様子
この本物のミニ映画の制作に関する興味深いストーリーが展開されるにつれ、アーティストのディマシュについて、キャラクター作りに取り組む際、監督が設定した課題に対する彼のアプローチについて、もっと聞きたくなった。
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「ディマシュに向かって、あなたが『カメラ、レコード、モーター、レッツゴー』と言ったとたん、彼は別人になります。
同じことがステージ上の彼にも起こります。
彼は一種のトランス状態に入り、役割を果たします。
私は彼に、一般的な指示だけを与えました。
『この地点に立って、あそこに行き、パートナーを見る、それだけだよ』
そして彼はというと、様々なしぐさ、様々な表情をします。
なにかしら合わないところがあれば、彼にヒントを出しました。
たとえば、ここでは顎を上げすぎているね、とか、傲慢すぎるね、とか、フレーム内で見てみよう、とか。
すると彼は私のヒントに同意するか、または『いや、これで大丈夫だ』と言うかのどちらかです。
つまり、創作上の小さな論争が彼との間で生じたとしても、私たちは合意に達しました。」
「私は彼に役の性格を与えますが、ディマシュは常に彼独自のなにかを加えようとしますし、彼は彼なりの方法でそれを少しやっています。そしてそれは当然のことです。」
「ディマシュはフレーム内に入るやいなや即興を始め、さまざまな身振りをしたり、表情を変えたり、顎の上げ方を変えたり、目で遊んだりします。」
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ディマシュが「撮影」に挑む様子
それに劣らず興味深いのは、撮影現場での撮影プロセス、つまり舞台裏に残るものだ。
ディマシュは撮影現場で、どのように働いているのだろうか?
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「ディマシュは最大限の努力をして、常にプロセスに参加し、テイクが終わるたびに駆け寄ってきて、どうなったかを見て、時にはこう言うのです。
『もっとうまくやれるよ!』
たとえ私がすべてに満足していても……つまり、監督が承認し、カメラマンが承認し、映像が素晴らしく、演技が素晴らしく、照明が素晴らしく、すべてが思い通りになっていたとしても、もし彼がもっとうまくやれると言うのなら、私はいつも彼に ‟俳優の” テイクを演じる機会を与えます。
ディマシュが私にこう尋ねるとします。
『いや、ここはもっとうまくできる、ここは左の方がいいし、ここは右の方がいい、最後は手のジェスチャーを変えてみたい』
そう言われたら、私は彼にチャンスを与えますよ。」
「必要であれば、彼はワンテイクで演技することが出来ますが、時間が余っていて、時間があることを彼が理解している場合は、彼は最大限の数のテイクを行います。
『急いでないんだよね?』だからもっとやろう、と。
もちろん、私たちチームはそれを歓迎します。面白い選択肢が多ければ多いほど、MVはより魅力的になるからです。しかも、これらは失敗テイクではありません。単なるバリエーションです。
私たちは編集の席に座って、こんな風に議論します。
『ほら、でもここでは手をうまく使ったよね』
と、私が言うと、
『だけど、ここ、こっちもなんかクールだよね』
と、ディマシュが返すのが面白いのです。
そうやって、最後にベストなバリエーションを選択していくのです。」
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撮影エピソードと、編集作業
かなりのテイクが撮影されたことが明らかになった。
最終バージョンを組み立てるのに、どれくらいの材料が使用されたのだろうか?
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「私は絵コンテだけを使って作業することに慣れています」
と、ミュージック・ビデオのディレクターは説明する。
「カメラマン、スタッフ、誰もが知っていることです。
これが最初のショット、それを数テイク撮り、次にセカンドショットです。
したがって、すべてが秒単位で行われ、すべてが必要であり、すべてが事前に計画されています。
毎分、すべてのフレームが、です。」
「例外は、ディマシュがネオン照明のフレームの中にいて、まるで鏡を通しているかのように見えるシーンでした。
カメラが動き、彼が歌うのはその場で即興で作ったフレームの中でした。
それは私が計画した方法ではありません。
しかし、ライトが誤って色を変え始めたとき、異常な効果が生まれました。
フロアランプは紫、またはピンクの光で点灯し、非現実的な世界のような錯覚を生み出しました。 私はそれが気に入りましたし、ディマシュもそれを高く評価してくれました。」
「私はなんでも正当化(こじつけ)するのが好きなので、次のような解釈をしました。
『これは現実ではありません。主人公はすべてを夢見ています。これは彼女の想像です。シーンはどれも冷たくて現実的です。なのでここで、サイケデリックなものを少し匂わせましょう』」
「動画、というか ‟魚(まだ食べられない素材の状態)” をまず自分でゆっくり編集しました。
ディマシュに見せても意味がないものです、まさにただの ‟魚” ですからね。
そして一緒に編集を終えました。
私たちは座ってショットを選びました。
その時にはディマシュが ‟生きた状態” で見ることができるものになっています。
『これは外して、このショットを見てみよう、別のテイクを持ってきてみようよ』」
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【ディマシュの仕事への取り組み方】
ミュージックビデオの撮影に積極的に参加するディマシュは、豊富な演技経験に加えて、カメラマンやディレクターの経験も積んでいる。
『When I’ve Got You 』のミュージックビデオでは、彼は作業工程にどの程度深く関わっていたのだろうか?
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「ディマシュは常に撮影現場にいました。
撮影中でなくても、プレイバックを見に来て、私の隣に座りました。
彼は、常に撮影の全過程をコントロールしており、アーティストとしてだけでなく、監督やプロデューサーとしてもアプローチしています。」
「しかし、まず第一に、彼はすでに多くの経験と完成作品を持っているアーティストであり、彼自身が監督になることができる人物です。
ミュージックビデオだけでなく、コンサートでも多くの監督が彼と仕事をしています。
そして、彼はすべてを見ていて、すべてに気づいています。
コンサートの内容、ステージの映像、パフォーマンスの舞台美術、音楽の演出からジェスチャー、他の参加者の配置に至るまで、ほとんどすべて彼自身が考えているのです。」
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ディレクターが成功を確信したシーンとは
今、私たちの前にあるのは、創造的なタンデム、ディマシュとガリムの作品であることは明らかだ。
メイン・ディレクターのガリフ・アシロフは、どのシーンが成功したと考えているのだろうか?
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「ディマシュがフィナーレで女の子を抱きしめ始め、カメラをちらりと見たとき、私は良い仕事をしたように思えました。
その結果、非常に興味深く、視覚的に成功した、映画のようなショットが完成しました。
その後、インタビュー・シーンもうまくいきました。
冷酷な雷の音の中で、彼が座ってインタビューを受けていると思われる場面です。」
ここでミュージック・ビデオのディレクターは、重要な詳細を追加した。
「主役のふたりは、常にお互いに助けあっていました。
彼と彼女を別々に撮影するのは意味がありませんでした。
たとえ少女がフレームに映っていなかったとしても、ディマシュが彼女とアイコンタクトを取れるように、私たちはふたりをいっしょに座らせていました。」
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CGはなく、そしてディマシュは ‟体内時計” を持っている
最後に、このミュージック・ビデオにはどれだけのCGが使われているのだろうか?
そしてそれが、視聴者にすぐにビデオを見せられなかった理由ではないだろうか?
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「このミュージック・ビデオには、グラフィック(*6)は一切ありません。
コンピューターは一切使わず、すべて自然に撮影しました。
主人公の少女が車に乗って移動するシーンでは、車の後ろにLEDを設置しました。
つまり、後で何かを消せるように使う ‟緑色の背景” も使いませんでした。
そこらじゅうのホースから本物の雨が降っていました。
特殊効果もないし、ディマシュはどこにも飛びません。」
(*6:この場合の「グラフィック」はCGのことで、CGとは人物や物体などをコンピューターの中で1から作り上げること)
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「どうやらディマシュには、ある種の ‟体内時計” があるようです」
と、ガリムは付け加えた。
「私たちはただ、彼の命令を待っていたのです。
『ぜんぶOK』
彼がそう言ったので、私たちはローンチ(公開)を始めました。」
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視聴者のコメントと、ディレクターが語るディマシュへの感謝の思い
最後に、MV『When I’ve Got You』の動画の下に視聴者のひとりが残したコメントを追加したいと思う。
「監督、カメラマン、舞台監督の皆さん、ブラボー!
このクリップは、ディマシュのダイヤモンドの声を美しく飾るジュエリーセッティングのようです。」
創造的なタンデムは素晴らしい結果を達成した。
近い将来、ディマシュの ‟体内時計” が指令を出し、彼の新作が評価されることを願っている。
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「今ではディマシュは、私にとって単なるアーティストではなく、親友です。
今日の世界では、自分と同じ志(こころざし)を持つ人、本格的な友人を見つけるのは困難です。
だからこそあの夜、彼が私に電話がかけてきてくれたことを、本当に嬉しく思っています。」
と、ガリム・アシロフは温かく振り返った。
「彼のおかげで、私は興味深いアイデアを実行することができ、歴史を作ることができ、小さいながらもディマシュ・クダイベルゲンという歴史の一部になることが出来たのですから。」
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テキスト:オルガ・テリコフ、DKメディア・ヨーロッパ
(Olga Terikov, DK Media Europe)
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(終了)
・著作権により無断転載及び保存を禁止します。
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